新薬開発の四方山話(2):アルツハイマー病の治療薬ってな~に?

いまからおよそ110年前,ドイツ・ミュンヒェン(Munich, Germany)において,医学史上偉大な発表がなされました。それは51歳女性患者の剖検脳についての発表でした。この女性,じつは生前は奇妙な行動をとったり,ちょっと前にしたことを忘れてしまったり(「短期記憶の喪失」)と,いまでいう認知症のような症状をもっていたのです。

この患者を診ていた医師は, Alois (Aloysius) Alzheimer という名前でバイエルン地方の生まれのドイツ人でした(図1)。彼女の脳が異常に委縮していたこと(図2)。またさらに,この脳切片を用いた結果,アミロイド斑と神経原繊維が検出できたと,その学会で発表しました。この医師にちなんで,このタイプの認知症は「アルハイマー病(AD)」と名付けられました。

(図1)

コラム小出(2)-図1

(図2)

コラム小出(2)-図2

科学技術の進展により,いまではアミロイド斑にはアミロイドβタンパク質(Aβ)が,そして神経原繊維には異常にリン酸化されたタウタンパク質(τP)が,それぞれ存在していることが判明しました。両者が脳神経細胞に対して毒性を発現することから,いまではADの発症原因物質ではないかと考えられようになりました。Alois Alzheimer 氏も医学者としては「大した方」ですよね。

このような経緯を経て,AD治療剤としては現在 (1) Aβを脳内から消失すべく抗Aβ抗体を投与すること,あるいはAβ生合成を抑制する医薬品を投与する,また (2) τPにつきましても,異常リン酸化τPの生成や機能を阻害する医薬品の臨床試験が全世界で実施されています。

ところが,抗Aβ抗体を投与し脳内からAβが完全に消失した患者でも,臨床症状ならびに死亡率にまったく変動がなかったことが,全世界で実施された大規模な臨床試験成績から分かりました。さて,どのように考えたら良いのでしょうか?

苦慮のすえ,(1) AD発症の比較的早期から患者(prodromal patients)に抗Aβ抗体を投与する, あるいは (2) 抗Aβ抗体と他剤を併用して投与する臨床試験が目下精力的に実施されています。さて,臨床効果は如何に?乞うご期待といった段階です。

ところで,私はまったく違ったAD発症機序を考えていますので,確認試験を実施すべく計画書を現在練っている段階です。じゃ~またコラムでお会いしましょう。TOBIRA専務理事・小出徹でした。