新薬開発の四方山話 (7): 新薬の研究開発ってほんとうに意味があるの?

日頃は考えられたことがないでしょうが「新しい医薬品(新薬)を世に送り出すのには、何年かかり、どのくらいのお金が掛かると思いますか?」「答え:目標とした疾患領域によっても異なりますが、大雑把に研究に取り掛かってから13.5年間、研究開発費は2、500億円」です。途方もない数字ですよね。

さらに悪いことに研究開発成功率は、たったの4 %と言われています。とくに脳の機能に作用する医薬品の成功率は1 %に満たないかも知れません。たとえば、私も医薬品の研究開発に40年間携わってきましたが、5品目の臨床開発を手掛け、製品となったのは糖尿病治療剤1剤のみ。残りの4剤は、すべて脳に作用する薬剤でしたが、1剤たりも承認認可されませんでした。「労多くして功少なし」です。

このような現実的な数字を見せつけられると「新薬の研究開発なんてや~めた」という声も聞こえそうですね。「そのご意見一理あり」と私は思います。しかし継続して新薬を研究開発しない限り疾病を撲滅できません。「じゃ~どうする?」答えは簡単。「いままで使われてきた古い医薬品の中から、未知の医学的作用を発見し、新たなる疾患の治療に立ち向かえば良い」わけです。合理的な考え方ですよね。

さて、高齢化少子化を迎えたわが国では高齢化に伴って発病する疾患、たとえばガン、認知症、骨・骨格筋関連疾患及び眼疾患の治療が当面の目標になります。この中から今回は眼疾患を取り上げます。

高齢化に伴う眼疾患として「白内障」や「加齢黄斑症」があります。「白内障」は外科的手術によって水晶体の交換が比較的容易にできるようになりましたが、問題は「加齢黄斑症」の治療です。これを放っておきますと失明に至ります。最近、脈絡膜血管新生にかかわる「抗血管内皮増殖因子抗体」が承認され、この抗体を硝子体腔に注射して治療しています。ところが、問題はこの抗体は非常に高価なのです。

ところで、四肢運動系に障害をきたす神経変性疾患に「パーキンソン病」という疾患があります。この治療にはエルドーパ(L-DOPA)という薬が古くから処方されています。最近の研究から、この薬剤を服用している患者では「加齢黄斑症」の発症率が極めて低いことが明らかになりました(Am. J. Med.、 2015)。治療費は抗体療法に比べたら二束三文の治療費で済みます。医療経済学的に大きく貢献しますね。

このように、既存の薬の中から新しい医学的な作用を見つけ出し、新たなる疾患に適用することも、大切な治療戦略ですね。「古いと言えど侮らない」の姿勢が大切。TOBIRAの小出徹でした。じゃ~また。

コラム小出(7)-図1

図1 目の構造

コラム小出(7)-図2

図2 加齢黄班変性症とは