新薬開発の四方山話 (14): 関係がないという関係

「一見全然関係ないようなことも実は深い関係にあった」と言うことが、世の中には枚挙に暇がありません。皆さん、例えば「丁寧(ていねい)という単語の語源は?」と聞かれて即答できますか?「丁寧の意味は知っているけど語源ですか?考えてもみなかった。」というのが皆さんの反応だと思います。

実は「中国の軍隊で警戒や注意を喚起する目的でド~ンと鳴らした楽器を丁寧と呼んだ」。それが語源で「細かい点にまで注意が行き届くとか、礼儀正しく」と言う「意味」に派生したそうです。嘘のような本当の話です。「丁寧」と「楽器」とは「関係がないような関係」ですよね。TOBIRAの小出徹です。

齢(よわい)を重ねると生体内物質の量は大体「減る」。「増える」のはAβプロテインで脳内に貯まるとアルツハイマー病になってしまいます(前にも触れました)。女性の更年期障害に係わるエストロゲン。このホルモンが減ると閉経を来し骨粗鬆症を来します。まさに「一人二役」です。男性の場合はテストステロン。施される治療法を「ホルモン補助療法」(hormone replacement therapy)と称します。

骨粗鬆症の治療はエストロゲン受容体刺激剤、活性型ビタミンDあるいはビスフォスフォネートと言われる医薬品で行われています。つまり「何とかして骨量を増やそう」という「健気(けなげ)な努力」をしています。この活性型ビタミンDに関して新しい機能が見つかりました(J. Cell Biol. 2015 DOI:10.1038)。それも今まで知られていない「骨」とは、まったく関係がない器官での作用です。

活性型ビタミンDが結合する受容体をビタミンD受容体(VDR、 vitamin D receptor)と言います。この受容体にビタミンDが結合して初めて医薬品としての効果が発揮されます。

前のコラムでも触れましたが、オリゴデンドログリアは脳神経細胞の「絶縁体」です。この「絶縁体」を作っている細胞群を「ミエリン」(myelin)と言います。「ミエリン」が作られて初めてオリゴデンドログリアは「絶縁体」として役割を果たせます。

コラム小出(14)-図1

図1 脳切片像:緑色がミエリン。赤色はVDR機能を阻害した画像でミエリンが無いScienceDailyより抜粋)

ところが、VDRの機能を阻害しますと図1にありますように「ミエリン」が作られなくなります。つまりVDRはオリゴデンドログリアの「ミエリン形成」に必須であると解釈されます。この事実は多発性硬化症(multiple myeloma、 MS)の治療に繋がる新しい知見です。なぜならオリゴデンドログリアの機能不全がMSの発症に関与しているからです。「骨」と「脳神経細胞」とは「関係のないような関係」です。

「抗うつ剤」(anti-depressants)とは、 うつ症状の改善を狙った医薬品です。今までのところ、すべてが「対症療法」(symptomatic treatment)で「根本療法」(causal treatment)はありませんでした。ところが、世界的に著名なマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital、 MGH)で大鬱病(major depression、 MD)を対象疾患として実施された臨床試験によりますと、NSI-18(*)を投与することにより、海馬(hippocampus)という記憶に関係している脳の部位の容積が増えるとともに、うつ症状と認知機能にも改善効果が認められたとのこと。「鬱病」と「認知機能障害」とは「関係ないような関係」ですが、今後新たな光が投じられるのかも。じゃ~。 (*、 NSI-18は抗鬱剤を狙っている開発品)