新薬開発の四方山話(18):”Cutting-Edge Research”の意味をご存じですか?

薬の研究開発で汎用される表現の一つに「Cutting-Edge Research」があります。この意味ご存知の方は、既に「新薬研究開発の名人」の域に達していらっしゃる方です。この表現に初めて遭遇したとき、私は「縁(ふち)を切る研究って何だろう?」と真剣に考え込んでしまいました。意味を理解できなかったのです。私がまだまだ医薬品の研究者として「駆け出し」の頃のお話です。TOBIRAの小出徹です。

実は、この表現は「褒め言葉」であり、同様な表現には「state-of-the-art」、「frontier」や「forefront」などがあることが分かりました。答えは「最先端をいく研究」という意味です。この種の研究は、新規性に富み、新しい治療法を確立するのに「絶大な力」を発揮しますので、新薬の研究開発には大変貴重です。

ところで皆さまは「呼吸器疾患」(respiratory diseases)というと何を想起なさいますか?呼吸器疾患には「肺がん」(lung cancer)、「喘息」(asthma)そして「慢性閉塞性肺疾患」(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)などがありますが、今回は「喘息」について触れます。喘息に罹患している方が皆さまの周りにも多いかと察しますので。

WHO(World Health Organization、 世界保健機関)によりますと、世界中の「喘息患者総数」は約3億人、「COPD患者総数」は2億人と報告されています。このうち1~2%の患者が死に至っています。なお、喘息が発症する場所は、気管(trachea)、気管支(bronchus)そして肺(肺胞)(alveolus)です。

喘息の治療は (1) 気管支の収縮を抑える「気管支拡張剤」と (2)気管支での炎症反応を抑える「気管支喘息治療剤」とに大別されます。医学的には (1) には β2刺激剤、テオフィリン剤や抗コリン剤があります。また (2) には吸入ステロイド、抗アレルギー剤や抗IgE(immunoglobulin E、免疫グロブリンE)抗体などがありますが、最近の臨床試験では抗体製剤の効果が主に検討されています。

これらの治療法によって、患者さまは「急場を凌ぎ」、「存命」し、疾患の進展を抑え込むことができるようにはなりましたが、多分に症状の緩和を狙った「対症療法」(symptomatic treatment)であり、喘息という疾患それ自体を治療する「原因療法」(causal treatment)ではありませんでした。この喘息の「原因療法」を探求し続けてきた米国アリゾナ大学医学部の研究者から、この度「Cutting-Edge Research」に相当する成績が発表されましたので、ここにご紹介いたします(J. Immunol. 2015; 194 (12): 6123)。

コラム小出(18)-図1彼らは「喘息」という疾患の原因を「表面活性タンパク質」(surfactant protein,SP)に求めました。左図のように「SP」にはA~Dのタイプがあり、とくに「SP-A」の機能を亢進すると呼吸を円滑にして肺胞から微生物を排除、貪食細胞を活性化して、喘息の原因物質を「気道」(airways)から追い出します。また「SP-A」は「好酸球」(eoshinophils)と「肥満細胞」(mast cells)とに結合し、炎症反応を抑えて肺の機能を維持します。とくに喘息患者では「SP-A」の変異体が検出されたとのこと。この発見は極めて新規であり、新たなる「喘息治療法」が確立される可能性があります。今後の進展に期待しましょう。