新薬開発の四方山話(22):驚き、桃の木、山椒の木、ブリキに、狸に、洗濯機

私たちは大抵夜寝て、朝起き、日中活動して、という生活パタ~ンで暮らしています。「当たり前のこと言うな!」と叱られそうですね。「当たり前なこと」と思しきことが崩れ去る時に「驚き、桃の木、山椒の木、ブリキに、狸に、洗濯機」という表現を私たちは使いますが、これに該当する例を取り上げます。

それでは質問:(1) 私たちは一日どれ位のエネルギーを消費しているでしょうか?(2) その要素はなんでしょう?(3) エネルギー消費量の多い体の臓器3つを挙げて下さい。さ~お答え下さい。

順々にお答えいたします。(1) 一日約2、000 kcalを消費します。(2) 基礎代謝量(60 %)、身体活動(30 %)そして食事誘発性熱産生(10 %)の3つの要素から成り立っています。(3) 脳、肝臓そして筋肉で約20 %ずつ消費します。なお、重量当たりのエネルギー消費量に換算しますと、脳がダントツに高い値になります。これらの数字は「ヒトの体」に携わる人には常識ですので、頭に入れておきましょう。

と言う訳で「脳」は一日約400 kcalのエネルギーを消費します。さて次の質問です。では、(4)「脳」のエネルギー消費量について、一番消費量が一番高くなるのは、どのような状況だと思いますか?

なんと、なんと驚いたことに「何も特別なことをせずにボ~としている時」なのです。仕事や読書などに集中している「意識的な活動」(conscious activities)に使用されるエネルギーはたったの5 %。消費量の20 %は脳細胞の修復・維持に使われ、残りの75 %はすべて「ボ~としている時」に使われています。「驚き、桃の木、山椒の木、ブリキに、狸に、洗濯機」。一体何の目的で使われているのでしょうか?

いまから15年前2001年Washington Univ. 医学部・Marcus E. Raichle教授は、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging、 機能的核磁気共鳴画像)を駆使し、課題を課した時の「脳の活動」、何もしないでボ~としていた時の「脳の活動」とを詳細に比較しました。その結果「課題を課した時にエネルギー消費が落ち込み、逆に何もしない時に消費が活発になっている脳の領野」があることを発見、これを「Default Mode Network、 DMN」(デフォルトモードネットワーク、初期ネットワーク)と命名しました。

コラム小出(22)-図1

DMNは神経解剖学的には前頭前野と頭頂葉に存在します。脳の前と後ろとが密接に繋がっているのです。生理学的な機能については (a) 自己認識、(b) 見当識、(c) 記憶に関与していると考えられます。「内省」(introspection)、「自己の振り返り」(think back)、信念などの「人間的精神状態」(human spiritual state)あるいは「自分の未来」(self-future)などを考える重要な「場」です。つまり、 人間として根幹的な機能を有している「脳の領野」なのです。    近年では統合失調症(SP)やアルツハイマー病(AD)などの精神疾患との関連性が「脳内神経結合性」の面から精力的に研究されており、SPの場合はDMNの活動が著明に上昇しており、逆にADの場合は落ち込んでいることが報告されました。