新薬開発の四方山話(39):生物界は未知なことで満ち満ちている

先日(2016年5月27日)アメリカ合衆国大統領Barack Obama氏が広島を訪れ、記念演説をしました。演説内容から「このような式典を英語でなんと表現するのかな」と思いましたら「President Obama Participates in a Wreath Laying Ceremony」(直訳すると「オバマ大統領、献花式に参列する」)でした。こういう「言い回し」があるのかと、知らなかった自分の「未熟さ」を身に染みて感じました。

「未熟」とは「技術や教養などが熟練してない」意味と辞書に記載されていますが、どんなにサイエンスが発達・発展しても、「わからないこと」(これを「未知」と称す)がありますね。今回は、そんな話題を取り上げてみようと思います。ご案内役は、いつものTOBIRA・小出徹です。では「はじまり~」。

外界がどんなに激変しても、私たちの身体の内部環境は一定に保たれています。これを「恒常性の維持」(maintenance of homeostasis)と言います。この「恒常性の維持」は「免疫系」(immunological system)、「神経系」(nervous system)そして「内分分泌系」(endocrinological system)の3つの異なる「系」が相互に作動しあい微細な調節がなされています。この内今回は「免疫系」について触れます。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0%e5%b0%8f%e5%87%ba%ef%bc%8839%ef%bc%89%e5%9b%b31「免疫」は大別して「自然免疫」(innate immunity)と「獲得免疫」(acquired immunity)とに分類されます(左図参照)。前者の「担い手」(carriers)は好中球(neutrophils)、マクロファージ(macrophage)やNK細胞(natural killer cells)です。なお、樹状細胞(dendritic cells)はマクロファージの一つです。一方、後者はヘルパーT細胞(helper T cells)、キラーT細胞(killer T cells)、サプレッサーT細胞(suppressor T cells)やB細胞(B cells)です。

このように、「担い手」の細胞の種類は異なりますが、「自然免疫」は外界異物に対する「初期反応」(initial responses)であり、好中球や「肥満細胞」(mast cells)は炎症を促進し異物を排除します。また、種々の白血球は「獲得免疫」を活性化するという重要な機能を有しています。また、マクロファージ(や樹状細胞)膜表面には「抗原提示細胞」(antigen presenting cells、 APC)があり、情報をヘルパーT細胞(Th-1とTh-2細胞とがある)が認識、その情報をB細胞に伝搬し、「抗体」が生成され私たちは免疫を獲得します。ここで「自然免疫」の最新情報をご紹介します。

アルツハイマー病(AD)の原因物質の一つとしてアミロイドベータタンパク質(Aβ)があることは、いままでにも触れました。このAβについて、この度大発見が世界的に著名なマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital、 MGH)から発表されました。それによりますと、① Aβは「自然免疫」の担い手であり、② 外来性病原菌に対し抗生物質のように働き、③ Aβを移入したトランスゲニックマウスはサルモネラ菌・カンディダ菌による感染に抵抗性を示し、④ Aβは抗菌性ペプチド(antimicrobial peptide)として種々の炎症に関与している。したがって「Aβを脳から完全に消去する現時点でのAD治療法は間違いである」と提案しました。現在、この研究者たちはAD脳を用いバクテリア、ウイルスや酵母菌の検出に取り組んでいるそうです。「生物界は未知なことで満ち満ちている」でした。じゃ~また。