新薬開発の四方山話(56):合併症と併発症って違うの?糖尿病を例にして

今回は標題について考えます。英語辞書で調べますと「合併症」も「併発症」「complications or concurrent diseases」とあり、区別は無いようです。日本語では違った単語で表現されているので、差があるはずだと執拗に調べることにしました。お元気ですか?TOBIRAの小出徹です。では、始めますよ~。

たとえば「凋落」(ちょうらく)を英語で訳すと「fall、 decline、 decay、 wither」とあります。これじゃ単に「落ちる、崩壊する、しぼむ」という意味でしかなく、「凋落」のほうがずっと意味深長(a statement of profound significance)で味わいがあると思いませんか?表意文字と表形文字の違いですかね?

用語辞典によりますと「合併症とは、ある疾患が原因となって発症する別の疾患」とあり、「併発症とは、何かしらの手術あるいは検査が原因となって発症する疾患」と記載されています。私見ですが「合併症はcomplications、 併発症はconcurrent diseases」とそれぞれ訳すのが妥当のように思いますが?

さて、本題に入ります。「糖尿病(diabetes mellitus, DM)の診断基準(diagnostic criteria)は、空腹時血糖(fasting blood sugar)が126mg/dL以上でHbA1c(hemoglobin A1c)が6.5%以上」です。また発症原因によって、I型糖尿病(膵臓β細胞が破壊される)とII型糖尿病(遺伝的な体質に肥満などの要因が加わる)に分類されます(膵臓β細胞は血糖を下げるインスリンというホルモンが生成する)。

糖尿病に長期間罹患しますと「目が見えなくなる」とか「腎臓が悪くなって人工透析(hemodialysis)を受けなければならなくなる」と専門医から必ず驚かされます。嫌ですよね。さて質問です。この場合これらの疾患は「合併症」でしょうか、それとも「併発症」でしょうか?良く考えてから、お答えください。

答えは「合併症」です。糖尿病の合併症には「糖尿病性網膜症」(diabetic retinopathy)、「糖尿病性腎症」(diabetic nephropathy)そして「糖尿病性神経症」(diabetic neuropathy)があり、三大合併症と称されています。今回は、これらに加えて最近スウェーデン・Karolinska Institutetが発表したDMと「心不全」(heart failure)を合併した場合の危険性についても触れます。DMは複雑多岐な疾患ですね。
コラム小出(56)-図1糖尿病性網膜症は網膜に小出血が認められ(上図)、ひどくなると大出血、網膜剥離(はくり、detached retina)や硝子体(vitreous body)が混濁してきて、失明(blindness)の危機に陥ります。治療法には、レーザーによる光凝固療法があります。糖尿病性腎症では糸球体(glomerulus)機能が低下し、尿中にタンパク質が漏れ出て老廃物を排泄できなくなり、末期には尿毒症となり人工透析になります。糖尿病性神経症は両足の裏のしびれから始まり、ひどくなると知覚麻痺を起し壊疽に陥り、足を切断しなければならなくなります。総じて「糖尿病性細小血管障害」(diabetic microangiopathy)が原因です。

心不全患者でDMが発症している場合としていない場合とでは、前者のほうが重篤度は圧倒的に高い。心不全の原因は「動脈硬化性冠動脈心疾患」(atherosclerotic coronary artery disease,CAD)であり、バイパス手術やバルーン法で治療を施したII型糖尿病患者の予後が総じて高かったとのことです。