新薬開発の四方山話(62):Phantom Limb Painって?

コラム小出(62)-図1「Phantom」というと米国の戦闘機を思い起こす方がほとんどですよね。それもそのはず、米国を含めイギリス、ドイツ、ギリシアそして日本などで現在用いられています。ベトナム戦争や湾岸戦争でも大いなる成果をあげた精悍な戦闘機です(左図をご覧あれ)。

さて、表題の「phantom limb Pain」の意味をお分かりの方はほとんどいないと思います。「Limb」が「四肢」を意味しているらしいとは、何となく想像がつきますが、なんと日本語では「幻肢痛(げんしつう)」と訳されています。「まぼろしの手足の痛み」という意味です。ところで「幻肢痛」って医学的には何を意味しているのかご存知でしょうか?今回は、この「phantom limb Pain」を題材にしてお話を進めます。じゃ始めます。

糖尿病末期患者やガン患者などの場合、手足を切断しなければならないことが往々にあります。手足を切断した後ですら50~80%の患者で、手足が残っているかのように「痛み」(pain)を覚えことがあります。これを「phantom limb pain」と称します。「鎮痛剤」(painkillers or analgesic agents)を投与しても効果がなく、新たな治療法を確立することが切に望まれています。そんなニーズを解消する治療法について、大阪大学とCambridge大学との共同研究から創出され、Nature Communications(27 Oct. 2016)に発表されましたので、ここにご紹介いたします。先ずは基礎的な知識から説明をいたします。

コラム小出(62)-図2人間の脳と四肢の関係から:脳は「右半球と左半球」(right & left hemispheres)から成り立っているのはご存知ですね。実は脳の神経系は80~90%が延髄で交叉します。つまり、右半球は「四肢の左側」、逆に左半球は「四肢の右側」を支配しています。例えば、四肢の左側に「麻痺」(paralysis)が認められた場合には、脳の「右半球」に障害があると理解されます。ですから左側四肢を「外科的手術で切除(切断)」(amputation)した場合には、影響が右半球に現れます。また、脳は「神経可塑性」(neural plasticity)と言って、何らかの外部刺激により脳内神経回路が新たに構築されることがあります。ここに「リハビリ」(rehabilitation)の医学的な意義があります。これらの事実を頭に叩き込んで本論に入ります。上図をご覧下さい。脳の光っている部分の神経活動が亢進しています(脳を真上から撮った写真。写真の上が身体の前方)。(成績-1)左側上肢がない患者の左側に「ロボット電極」(prosthetic)を装着し患者をトレーニングすると右半球の神経活動が賦活しました。が、「痛み」はかえって増大しました(図・左)。(成績-2)今度は、同一の患者の右側に「ロボット電極」を装着し患者をトレーニングすると、脳左半球の神経活動・神経可塑性が増大してきて(図・右)、「痛み」も有意に軽減しました。つまり「神経可塑性」と「痛み」は相関することが判明した訳です。なお、前者の成績は「脳神経系は正常に作動しているものの、感覚系フィードバック機構に問題があろう」と推定されます。いずれにしましても「phantom limb pain」に「光明が射してきた」ような研究成果ですね。TOBIRA・小出徹でした。