新薬開発の四方山話(64):新薬開発の「ガチンコ」

「ガチンコ」の語源を調べますと「相撲界の隠語で、力士同士が激しく立会いをした時に‘ガチン‘と音がするところから、真剣勝負を表す隠語として使用されるようになった」とありました。「相撲」(sumo wrestling)ですから「1:1」の「対戦」(fighting)です。この単語が新薬開発にも使われる?と素朴に疑問視し「半信半疑」(uncertainty, uncertainness, precariousness,doubtfulness, dubiousness, dubiety, incertitude)と申しますか「疑心暗鬼」(Suspicion will raise bogies; Once you suspect something,everything else will look suspicious; Jumping at shadows)に陥りますよね。でも「本当」のお話です。医薬品業界では「ガチンコ」のことを「head-to-head」と言い、試験医薬品(新薬)と既存の医薬品とを用い「1:1」で「優劣」(relative merits; merits and demerits; superiority or inferiority)を決める臨床比較試験のことを意味します。通常は、承認認可を取得するためのフェーズIII試験、または製造販売承認許可を取得した後に実施します。と言う訳で、今回はThe Lancet (November、 2016)で発表された「ガチンコ」を紹介します。扱う疾患は「関節リューマチ」(rheumatoid arthritis,RA)です。

コラム小出(64)-図1国内ではRA患者が60~70万人いて、女性が男性より3~4倍多く、30~50代に多発する疾患です。RAの臨床経過を左図に示しました。大部分の患者が症状が改善したり悪化したりの繰り返しですね。

今回の発表では既存薬も新薬もTNF(腫瘍壊死因子,tumor necrosis factor)の抗体を用いて「ガチンコ」を実施、両方の薬剤ともにRA治療効果を発現した成績が得られ、更には「最初の治療剤で効かなかった場合には、違う作用機序の薬剤を投与すべき」との「既成概念」(preconceived idea)を打ち壊し「最初の治療剤(従来品)が駄目でも、同じ作用機序の新薬に切り替えることが重要である」と発案しました。ただし「最初の薬剤と2番目の薬剤投与の間隔は’間髪入れず’(on-the-fly)に実施することが前提」としました。この成績は従来のRA治療からの脱却。「パラダイムシフト」(paradigm shift)です。なお、今回用いた新薬は、40%の患者に効いたそうです。

ところで、RAに「罹患します」(be affected with RA)と「骨量減少」(bone loss)が往々にして起こります。この理由の一つとしては、RAに付随する「痛み」(pain)を軽減する目的でステロイド剤が処方されますが、これにより急速かつ長期にわたり骨量が減少、「椎体骨折」(vertebral fractures)が17倍、そして「股関節骨折」(hip fractures)が7倍増えたとの報告があります。この治療法に関しましては「DMARDS」(疾患修飾性抗リウマチ薬,disease modified anti-rheumatic-drugs)のみならず「骨粗しょう症治療剤の投与」(osteoporosis)をも考慮すべきだとの提案が「International Osteoporosis Foundation」(国際骨粗しょう症財団,IOF)から発表されました(Osteoporosis International ,November ,2016)。この論文では「骨量減少を阻止する治療法」について、おもに「生物学的製剤の使用法」(biologic therapeutics)を総括的に(comprehensively)纏めてありますので、興味ある方は是非ご一読下さい。