新薬開発の四方山話(65):バイブルに反旗を翻す

「バイブルに反旗を翻す」とは「何と過激な発言」と言われそうですね。とは言っても、ここでいう「バイブル」とは「聖書」(the Holy Bible、 the Scriptures)のことではありませんので、ご安心ください。TOBIRAの小出徹です。今回扱う疾患は「精神病」(psychiatric disorders,PD)です。

コラム小出(65)-図1先ずは左図をご覧ください。この方が「造反者?」(rebels, dissenters)の写真です。とても悪人には見えません。むしろ「知識人」(intellectual)みたい。それもそのはず、この紳士はJan Dirk Blomさんと言いオランダ・ライデン大学(Universiteit Leiden)精神医学科教授をなさっている方です。お若いですね。

その彼が本年11月11日教授就任式において「バイブル」の「矛盾」を力説したとのこと。さてと、ここで言う「バイブル」とは?実は「DSM-5」のことで「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition」の略称です。「米国精神医学会」(American Psychiatric Association,Washington D.C.)が2013年に「精神病の診断ならびに治療法」に関しまとめ上げた成書で、全世界の精神医学の標準書となっていて、邦訳版も上梓されました。

矛盾点要旨:①「DMS-5」ではPDの診断法について詳細に述べられているものの、「実際の医療現場」とのギャップが大きく、②患者が「統合失調症」(schizophrenia)と診断される頻度が高くなり、③患者に誤った診断で薬剤を投与し、④患者家族にも余分な心配を与えてしまい、⑤数量的な点数化などに気を取られ、個々の患者に固有な症状を診断するというより、むしろ誰にでも当てはまるような基準が掲載されている。したがって、一人の精神科医として今後は⑥「個別化医療」(personalized medicine)あるいは「テーラーメード医療」(tailor-made medicine)を目指し、さらに⑦PDは「複雑系の疾患」(diseases of complexity)であるので、臨床医および研究者も交え「臨床症状の科学的データベース」(scientific database of clinical symptoms)を構築したい、と論究したそうです。

本課題については、米国と欧州精神医学界のどちらが「合理的な主張」(rational assertion)をしているのかは、今後の成果を待つより他に道はないものの、両者がそれぞれ辿ってきた「精神医学」(psychiatric medicine)の「歴史的な差異」(historical distinction)をここに垣間見る思いがしました。

丁度いい機会ですので「DMS-5」の概要について触れたいと思います。全部で19章から成り立っています:①神経発達症群/神経発達障害群、②統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群、③双極性障害および関連障害群、④抑うつ障害群、⑤不安症群/不安障害群、⑥強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群、⑦心的外傷およびストレス因関連障害群、⑧解離症群/解離性障害群、⑨身体症状症および関連症群、⑩食行動障害および摂食障害群、⑪排泄症群、⑫睡眠―覚醒障害群、⑬性機能不全群、⑭性別違和、⑮秩序破壊的・衝動抑制・素行症群、⑯物質関連障害および嗜癖性障害群、⑰神経認知障害群、⑱パーソナリティ障害群、そして⑲パラフィリア障害群です。どうですか?PDが網羅されています。ご自分自身でも思い当たる節はございませんか?様々なPDがあって驚かれたでしょう!じゃ~。