新薬開発の四方山話(67):セレンディップの三王子さま

「セレンディップ」(Serendip)とは、昔は「セイロン島」(Ceylon)と呼ばれ、いまの「スリランカ」(Sri Lanka)のこと。「聖なる美しい島」を意味し近隣には「インド」(India)や「バングラディッシュ」(Bangladesh)があります。「宗教」(religions)は、それぞれ「仏教」(Buddhism)、「ヒンヅー教」(Hindu)、「イスラム教」(Muslim)です。国が成立するまで幾多の苦い歴史がりました。

英国の政治家であり小説家のHorace Walpole が子供の頃に読んだ「セレンディップの三王子さま」(現代訳すると「スリランカの三王子さま」)という童話に因んで「素晴らしい偶然に出会い予想外のものを発見する」を意味する「造語」(coined words)「serendipity」を18世紀半ばに作ったそうです。

この「serendipity的な医学的発見」について、今回はご紹介いたします。扱う疾患は「神経変性疾患」(neurodegenerative diseases)です。さ~始めます。ご案内役はいつものTOBIRA・小出徹です。

長いこと脳内には「リンパ管」(lymphatic vessels)がなく「免疫系から逃れている臓器」と信じられてきました。ところが昨年2015年7月「Nature」誌 (Nature. 2015 July 16; 523 (7560): 337-341)で米国the University of Virginia研究者が脳表にある「硬膜」(dura mater)に「リンパ管」が存在していることを世界で初めて発表しました。実はこの発見、たまたま「頭蓋」(skull)を従来とは異なった方法で外したため、「硬膜」が「傷つかず」(intact)に残っていたこコラム小出(67)-図1とによる「偉大なる発見」(great discovery)でした。まさに「serendipity的な医学的 発見」ですね(左図参照)。この発見により「脳脊髄液」(cerebrospinal fluid,CSF)を介した「脳実質細胞」(brain parenchymal cells)と「髄膜」(meninges)との「相互作用」(interactions)があり得ることが示唆されました。これを英語では「Connection between the glymphatic system and the meningeal lymphatic system」と表現します。さらに話は進展します。

今年11月にベルギー・VIB – Flanders Interuniversityから「髄膜には脳内神経細胞を作り出す神経前駆細胞(幹細胞)が存在する」(meningeal neuronal progenitor (stem) cells、 NP)との報告がなされました(Cell Stem Cell,Nov. 2016)。「え~、脳神経細胞って再生しないのでは?」という「素朴な疑問」(a primitive question、 a question just out of my curiosity)が浮かびませんか?ですよね~!

【偶然の発見】 (1) 「新生児脳」(neonatal brain)では、髄膜にあるPNは「髄膜から大脳皮質へと移動する」(2) 移動したNPは機能的に有効な皮質神経へと「分化する」(differentiate)(3) 髄膜NPは形態学的には「放射線状グリア細胞」(radial glial cells)だった。【要旨】髄膜にあるPNは「胎生期幹細胞」(embryonic stem cells)と脳内神経細胞の「中間体」(intermediates)として存在し、大脳皮質に移動し機能的に有効な皮質神経細胞回路へと分化する。なんと「大胆不敵」(audacious)な仮説です。

従来「神経内科医」(neurologists)の間では「幼児期(childhood)以降では、脳神経細胞は新生しない」が「教義」(dogma)でした。ところが、「実験的証拠」(experimental evidences)発表されるともに、この「教義」は打ち砕かれ本細胞を用いて「神経変性疾患の治療」へと歩み出したそうです。