新薬開発の四方山話(68):Centrismについて

「Centrism」の意味をご存知でしょうか?「中心主義」のことです。「中華思想」(中国が宇宙の中心であるという漢民族が持ち続けてきた(いる?)思想)は「中国中心主義」(sinocentrism)で、中国の近隣にいる国々の民族は「野蛮人」(savage、 barbarous)とみなされ「東夷・西戎・南蛮・北狄」(とうい・せいじゅう・なんばん・ほくてき)との蔑称で呼ばれていまし(す?)。という訳で、今回は「治療におけるcentrism」について話します。扱う疾患は「動脈硬化症」(atherosclerosis,AS)。小出徹です。

コラム小出(68)-図1先ずは左図をご覧ください。「LDL」とはlow density lipoprotein cholesterol。血液中には「HDL」(high density lipoprotein cholesterolもあり、「LDL」を「悪玉」(bad guys)、「HDL」 を「善玉」(good guys)と呼んでいます。これは「血管」(vessels)に対して悪いこと、良いことをしているかで分類されます。その他には「VLDL」や「VHDL」なども血中には存在しています(”V”はveryの意味です)。「LDL」という「悪玉」が今回の「ASのcentrismの担い手」です。

「血管」を流れている「LDL」などの成分が直接々する血管側の細胞群を「血管内皮細胞」(vascular endothelial cells,ETC)といいます。この「ETC」に「LDL」が「取り込まれ」(be taken up into ETC)、「血管平滑筋」(vascular smooth muscles,SM)が「増殖」(proliferation)し、血管壁が肥厚(thickening)して「AS」へと「進展」(development)します。「AS」が発症しますと種々の「心臓疾患」(cardiovascular diseases)が惹起され、全世界的にも「死亡率」(lethality,mortality)が第一位を未だに誇っています。

「AS」の「病態」(pathology)と「予防」(prophylaxis)を考えます。もう一度上図を見て下さい。「ETC」で細胞膜上には (1)「LDL receptors」(血中LDLと結合しLDLをETC内に取り込み細胞内でLDLを分解する受容体)と (2) 「LDL receptors-independent binding protein」(LDL受容体非依存的な結合タンパク質でLDLと結合しLDLを細胞内に取り込む)とが存在し、血中LDL濃度を精緻に制御しています(なお、この図は1985年にノーベル生理医学賞を受賞したJoseph L. Goldstein氏の論文から引用)。   「LDL受容体」はLDLとともに細胞内に取り込まれたあと、再びETC細胞膜上に出て来ます。これを「受容体リサイクリング」(receptor recycling)と言います。この度「Nature Communications」誌上(21 Nov. 2016)で、米国Yale Universityの研究者が「LDL receptors-independent binding protein」は「activin-like kinase 1、 ALK1」であることを世界で初めて突き止めました。ALK1の「病理生理学的な意義」(pathophysiological significance)については「ALK1がLDLに直接結合しALK1-LDL pathway (回路)を介しLDLがETC細胞内に取り込まれ、そこに滞留する」と考えました。この過程こそが「ASの発症初期(early phases of AS)像である」ことを提唱しました。まことに斬新で新しい発想です。

どういうことか?「ALK1-LDL pathwayを阻害すればASの発症を予防できる」という訳です。さらに「抗高脂血症剤」(antihyperlipidemic drugs)とを「併用」(combo)すれば、効果が一段と高まると期待されます。「LDLがAS発症のcentrism担い手」という話題でした。じゃ~またお会いしましょう。