新薬開発の四方山話(71):表千家、裏千家、武者小路千家とで三千家

豊臣秀吉の時代に「茶道」(tea ceremony)を大成した「千利休」は、秀吉の逆鱗に触れ結局は切腹を命じられた人物。その利休の孫が「千利休の家柄」である「千家」をもらい、自分が守ってきた茶室「不審庵」を三男に譲渡したのが「表千家」、さらに同じ敷地内に茶室を立て四男に譲渡したのが「裏千家」の由来。因みに「表千家」では武士が、そして「裏千家」では商人が、それぞれ「茶道」を学んだため、前者は「質実剛建」(simplicity and fortitude)、後者は「華やかさ」(glorious)を「流儀」(style)としました。また、次男に譲った「武者小路千家」を合わせて「三千家」と呼びます。ご存知でしたか?

なぜこのような話から始めたのか?それは「シグナル伝達系」(signal transduction)にも「流儀」があるからです。今回は「インターリューキン6」(interleukin-6, IL-6)が主役で、「多発性硬化症」(multiple sclerosis, MS)を疾患として取り上げます。Technische Universität MünchenNature Immunology, 2017 Jan 18(1):74-85に発表した内容を題材に取り上げます。TOBIRA・小出徹です。

コラム小出(71)-図1上図は「シグナル伝達機構系」を示しており、図の左端「分子自身」(molecules)、真中「分子複合体」(molecular complex)、そして右端「多分子集合体」(multimolecular cluster)の3つの機構があります(”三千家”と同じ”3”ですね)。「分子」は今回IL-6です。MSの原因物質はIL-6であり、脳神経細胞ミエリン鞘(brain myelin sheath,BMS)が破壊されますが、IL-6の「作用様式」(mode of action)の詳細は不明のままでした。そこでドイツ研究者は「抗IL-6抗体は医薬品として世に出ているのに何故IL-6が関与している疾患全般に奏功しないのか?」との素朴な疑問から発し新たな発見に到達。

【新発見】(1) 「T細胞」(T cells)が「樹状細胞」(dendritic cells,DC)に遭遇すると、DCからIL-6が遊離され、T cellsはリンパ管で「病原性」(pathogenic)を獲得し、 MSのような「自己免疫疾患」(autoimmune disease)を起こす。「内因性標的物質」(endogenous target substance)はBMS。(2) ところが、問題は「IL-6が遊離されてもT cellsは病原性を‘必ずしも獲得する訳ではない’(not always)」。なぜか?(3) DCは従来、二通りの「流儀」でIL-6とT cellsとの「連絡」(communicate)していることが知られていた:(a)DCから遊離されたDCの近隣にIL-6は拡散する(図左端)、 (b) IL-6とIL-6 受容体複合体(complex)を形成し作用する(図真中)。(4) DCとT cellsとの「集合体」(cluster)上にIL-6が作用し「DCからIL-6のシグナルを受けると同時に他のシグナルも受ける」(図右と類似)という機構を提案。「この機構を介しT cellsはBMSへの組織攻撃性が最も強度となりMS発症させる」と推測。(4)の機構を阻害する医薬品がIL-6に起因する疾患全般に効く。(5)関与しているT cells は「ヘルパーT細胞」(TH)であり、さらに「TH1」や 「TH2」ではなく「TH17」である(これも“3”ですね)。