新薬開発の四方山話(79):「融通無碍」の意に本質をみる

「融通無碍」(ゆうずうむげ)とは「行動や考えが何の障害もなく自由で伸び伸びしているさま」を意味します。英語では「flexible,versatile」が該当するかな?コラム(78)では標題が「‘他山之石 可以攻玉’で今回は漢字熟語か。まったく発想に乏しいね~」と罵声を浴びることも覚悟しつつ、今回はこの話題で通します(「初志貫徹」)。扱う疾患は「視神経脊髄炎」(neuromyelitis optica,NMO)です。

質問①:NMOが何故「融通無碍」と関係しているのでしょうか?回答①:実はこの疾患、ほんの最近(2000年ころ)まで「多発性硬化症」(multiple sclerosis,MS)と診断されていました。が、「融通無碍」の意を解する研究者により、MSとは異なる疾患として分類されました。質問②:この二疾患の類似点と異なる点を答えて下さい。回答②:「分かっていたら、こんなコラムなんて読みはしないよ~。」と言われそう。合点がいく発言です。本題に入ります。ご案内役はいつものTOBIRA・小出徹です。始めます。

類似点:脳内グリア細胞に対する自己免疫疾患で多発性炎症病巣を有する慢性疾患。異なる点:(a) NMOは脳室上衣細胞を含むアストログリアが障害される視神経障害で視神経や脊髄障害が多く小脳症状は少ない。(b) MSはオリゴデンドログリアが障害され脱髄症状(ミエリン破壊)を主とし視神経、脊髄、大脳、小脳いずれもあります。診断:(a) NMOは血液を用いアポクリン―4抗体陽性か、または脊髄MRIで脊髄病変を認めるかのどちらかです。(b) MSは中枢神経に2個以上の多発性病巣を認め、慢性的な活動があり、類似の臨床症状を呈する疾患、例えばベーチェット、サルコイドーシスや膠原病を否定できること全てを満たす。発症初期にB.B.B.破綻がある。治療法:ステロイド療法、血漿交換、リツキサン、ミトキサントロンとアザチオプリン投与などが実施されていますが、特効薬はいまのところありません。そこで今回は新しいNMO治療剤を紹介いたします。Pennsylvania大学からの発表(2017)で、試験薬剤(ST266)はNoveome社(Pittsburgh)で創製されたものです。臨床試験を実施している医薬品候補化合物です。

コラム小出(79)-図1左図をご覧ください。マウス視神経ミエリンを染色した画像で上段は正常、中段はNMOを実験的に起こし、そして下段はNMOマウスにST266を投与した画像です。中段ではミエリンがほとんどなく、下段ではミエリンが著名に増えていますね。「ちょっと効き過ぎの感が無きにしも非ず」ですが。視神経ミエリンを染色していることから、純然たるNMOというよりMSに伴った視神経障害モデルと言った方が正確です。ところでST266について検索したのですが、「生物活性がある数種類の化合物の混合液」であることまでは判明しましたが、化学的にどのような成分が含まれているのかは具体的には分かりませんでした。
ST266は「secretome」(セクレトーム)と称されていることから、生体細胞から「生理活性物質の分泌を高め」、生体での「炎症」(inflammation)を制御し、「損傷治癒」(impaired wound healing)を促進し、神経細胞の機能を回復するものと考えられます。したがいまして、様々な適応症で臨床試験を実施している最中です。今後を見守りたいと思います。「融通無碍」でした。では、またお会いしましょう。