新薬開発の四方山話(84):私の名前は「C. elegans」

私の名前は「シー・エレガンス」(C. elegans)。正式には「Caenorhabditis elegans」と言います。が、ほとんど方々は略して「C. elegans」と私を呼びます。私の体長は1mmほどで透明で「線虫」(nematode,roundworm)に属します(下左図)。1960年代に「神経系の発生過程」(neural developmental process)コラム小出(84)-図1のモデル動物として使用されて以来、私を使用した研究から(1) 2002年“genetic regulation of organdevelopment and programmed cell death”と(2) 2006年“for their discovery of RNA interference – gene silencing by double-stranded RNA”と二度に渡りノーベル生理学・医学賞を受賞されましたよ。私を研究材料として用いると「複雑多岐」(complex and wide-ranging)に渡る「哺乳類」(mammalians)よりも随分と簡明に生体内反応が研究できるそうです。そう言えば2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏は「酵母」(yeast)を研究に使っていましたね。たぶん似たり寄ったりですね?

そんなこんなで今回は「C. elegans」を使った米国Buck Institute for Research on Agingの研究(Nature Communication,Feb. 21,2017)をご紹介いたします。扱う話題は「寿命」あるいは「長寿」(longevity)です。ご案内役は、いつものTOBIRA・小出徹です。では始めます。ついて来て下さい。
コラム小出(84)-図2珍しく化学構造式を取り上げます(左図)。この化合物は「Thioflavin T」または「CI49005」のコ-ド名で知られ、黄色の物質でAβなどの「誤って折り畳まれたタンパク質」(misfolded protein,MP)を染色するための色素です。以前のコラムでお伝えしたように、MPが脳内で形成されますと神経毒性などを発揮します。実は、この化合物が「寿命」を著明に延長させる作用を有すると言うのです(対照群と比較してコラム小出(84)-図350%以上延長した)。「え~、本当かな?」って訝しく想う方も多いと思います。私もその一人ですのでご安心ください。また、アルツハイマー病をC. elegansで起こしたモデルでも「Thioflavin T」は病気の進展を有意に遅らせたのこと。さらに、これらの研究成績は異なった3つの研究施設でも確認されたとのことです。つまり「再現性」(reproducibility)が高いですね。
「老化」(aging)の研究においては、特にこの「再現性」が常に問題にされており、10万種以上の線虫を用い、幾つもの米国の研究施設がこの研究に入り込んでいることを考慮しますと、「Thioflavin T」による「長寿促進効果」(pro-longevity promoting effects)は確かなようです。今後は遺伝子操作した種々のマウスを用いて「Thioflavin T」の効果を確かめる予定だそうです。乞うご期待と言うところですね。

免疫抑制作用、がん治療作用、平滑筋増殖抑制作用および寿命延長作用を有する「ラパマイシン」はFDAから承認認可を受けましたが、米国the Invention Testing Program (ITP)プロジェクトから創製されました。今回紹介した研究チームも「ITPに追いつけ追い越せで頑張りたい」と息を弾ませています。