医薬品開発の四方山話(47):「これはbreakthroughだ!」と絶賛された最近の3論文

今回は、編集コメントで「breakthrough」と称賛された3論文をご紹介いたします。内容が多岐に渡っているため、理解するのに少々時間が掛かるかも知れませんが、そんなことは気にせずに「勇猛果敢」(daring and resolute)に取り組んでいきましょう!いつもTOBIRAの小出徹です。じゃ~始めますよ。

まず、ご登場願いますのは英国・Newcastle大学の論文:「脳腫瘍のエネルギー代謝経路」に関する新発見。「ワールブルグ効果」(Warburg Effect)をご存知でしょうか?これは「ガン細胞では、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化によるエネルギー効率が低下し、かわりに細胞質における嫌気的解糖系を介したエネルギーが増加するという説」で、ドイツ人Otto Warburgが唱え1931年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ところが、今回「脳腫瘍ではグルコース解糖系ではなく、脂肪酸の分解系を利用したエネルギー産出系が重要である」ことを発見したのです。脂肪酸β酸化に依存してガン細胞生き延びる。

ここでいう「脳腫瘍」(brain tumor)とは「神経膠腫(こうしゅ)」(glioma)のことで、約10万人に4人発症し予後が非常に悪い「悪性」(malignant)のガンです。脂肪酸のβ酸化の阻害剤であるetomoxirを患者に投与したところ、gliomaの成長が抑制され、患者の生存率が17%延長したとのこと。

次はオーストラリア・Queensland大学の論文:「IL33が喘息の進展に関与」という新発見。IL33が「気管支喘息」(bronchial asthma)に関与していることは周知ですが、喘息発作の原因となる「呼吸器系ウイルス感染」(respiratory viral infections)にもIL33が関与していることを世界で初めて発見。

要は、喘息の発作誘因であるウイルスで動物を感染させ、その後に「アレルゲン」(allergen)を投与したところIL33が有意に上昇した。ウイルスとアレルゲンを同時に動物の「暴露」(exposure)したことが実験として目新しい。治療学的にはIL33を阻害・中和しさえすれば喘息は抑えられるという想定。

最後に、ご紹介するのはオーストリア・Wien大学の研究者の論文:「STAT1を介したNK細胞の活性化」という新発見。この発見により「ガン免疫療法」(cancer immunotherapy)への新たなる道が開ける。この代表研究者Veronika Sexl教授に敬意を表し写真を掲載します(下図)。ゲルマンと申しますか、アーリア人と申しますか、なかなか「凛とした風貌」(dignified features)をなさっていますね(失礼)。

コラム小出(47)-図STAT1はもともと「転写因子」(Transcription Factor、 TF)ですが、「NK細胞」(natural killer cells)を活性化する作用はTFとは無関係な作用であると研究者たちは主張しています。つまり、STA1は核内ではなく、NK細胞とガン細胞が接する細胞膜に存在していることを発見しました。まったく考えられませんね!NK細胞が活性化されれば、ガン療法の有効性が格段に上昇すると期待されます。STAT1による新たなる「ガン細胞監視機構」(tumor surveillance system)の幕開けです。今後を大いに期待しましょう。

さて、如何でしたでしょうか、この3論文?「Breakthrough」の意味を辞書で引きますと「大きな進歩、躍進」となっています。これら論文に共通することは、(1) 自分たちの研究の基礎知識・背景的な歴史を熟知している、(2) 既成概念を打ち破ることを躊躇しない、そして (3) 進取の精神でしょうか?