新薬開発の四方山話(57):世にも華麗な一致 ~期せずして同一機軸に乗る~

In God We Trust”(われら神を信ず)をスローガンとしているお国と言えば、さ~どこの国でしょうか?そうです。答えはアメリカ合衆国です。50の州、二つの準州、二つの自由連合州、そして多くの領有小島から成立しています。ご存知でしたか? さて今回は、その合衆国のアイオワ州にある二つの異なった大学からほぼ同時期に、それも同じ疾患の治療を目指した発見をご紹介します。「新発見は同期化してなされる」の典型例ですよ。TOBIRAの小出徹です。いつものように、しっかりとついて来て下さいね。

今回は「神経変性疾患」(neurodegenerative disease)のうちで「パーキンソン氏病」(Parkinson’s disease、 PD)を扱います。「名前は聞いたことはあるけど良く分からんな~」が一般的なご意見でしょう。

PDでは「ふるえ」(tremor)、「固縮」(rigidity)、「無動」(akinesia)および「姿勢障害」(posture impairments)が初期臨床症状として出現します。末期には「寝たきり」(bed ridden)そして「死」を迎える疾患で、脳内神経系のなかで「ドーパミン神経系」(dopaminergic neuron、 DA)が低下することによって起こります。治療法は「エル・ドーパ」(L-DOPA、脳内でDAとなって効く)の内服です。

ところで、消化管粘膜には「免疫担当細胞」(immune intestinal cells)が多く存在しています。これらの細胞が脳内DA系に対して防御的に働きPDの治療に繋がるという「奇想天外」(tree tumbo)な発見が最近なされました。消化管と脳を結びつけた「担い手」(carrier,bearer,leader)とは一体何者か?

発想の源泉は「ミトコンドリア(mitochondria,MC)が障害を受けるとPDのみならずALSやADなどの神経変性疾患が発症する」事にあります。つまり「消化管免疫担当細胞は常にMCの機能異常を‘監視’(surveilling)し障害をうけたらMCを即座に消去し反応を断ち切り、脳内DA神経細胞が脱落を防止する」。この仮説は「ロテノン」(rotenone)というDA神経系神経毒を使った実験から証明しました(下図・左参照)。

コラム小出(57)-図2コラム小出(57)-図1

もう一報最近の論文をご紹介。「プロカイネタイシン―2」(prokineticin-2,PK2)は神経系の障害が起こされるような「初期ストレス」(early stages of neurotoxic stress)時に生成、細胞外腔に分泌される神経ペプチドです。PD初期にはPK2が脳内神経系で多く発現することが確かめられています。

PK2はMCの生成促進作用を有しており、このことによりエネルギー生産量を増加させ、PD時の減少した脳内DA量に対して「神経防御的」(neuroprotective mechanism)に働くのではないかと考えられています(右図参照)。つまり、何らかの手段により「PK2の生成を亢進すれば、PDの進展を抑制するばかりか、新しいPD治療法に繋がる」と期待されています。この発想も「奇想天外」ですね。

ヒト剖検脳から得られたサンプルから培養脳細胞を作製したところ、幾千の因子の中でPD脳では、PK2の発現が非常に高かったそうです。PK2については、未知な部分も多々あり今後に期待しましょう。

両者ともに、PD発症機序として「MC機能」に着眼したという「世にも華麗な一致」でした。また。

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