新薬開発の四方山話(32):人は見かけによらないように疾患も見かけではすまない

肌が荒れているヒト、あるいは肌が汚いヒトを見て「このヒトはお風呂に入っているのかしら?」とか「顔を洗っているのかな~」なんて疑うことはありませんか?「皮膚の状態」と「体を洗う」行為は、実は基本的には独立した事象であり、原因になり得るかも知れませんが「関係ないという関係」ですね。たとえば、あるヒトが「おできができた」と皮膚科に来院しました。担当した医師が「ん~大したことはありません。軟膏でも塗っておいてください」と言い、他方「念のため、血液を採らせて下さい」と言いました。さて、果たして、どちらの医師が医学的に優れていると皆さまは、お考えでしょうか?今回は、このような話題に触れようと思います。ご案内役は、いつものTOBIRA・小出徹です。初回コラム(1)で「乾癬」(かんせん、psoriasis)を話題にしました。覚えていらっしゃいますか?「乾癬」の治療剤を投与すると自殺するヒトの数が増えたというお話です。「乾癬」は皮膚疾患の一つで、皮膚が盛り上がり、赤い発疹のうえに銀白色のフケのようなものが付着し、 皮膚が剥がれ落ちる疾患です。さて、さて、この「乾癬」と「骨量減少」(general bone loss)とが密に関係しているというのです。「え~!?」って思いませんか?皮膚と骨の疾患が関連している?将に「疾患も見かけではすまない」ですね。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0%e5%b0%8f%e5%87%ba32%ef%bc%89%e5%9b%b31

向かって左側が健康なマウスの骨、右側が表皮が剥がれ落ちる「乾癬」モデルマウスの骨です。右側の骨密度(bone density)が落ちているのが一目瞭然。つまり、「乾癬」に罹患した患者層では「骨量減少」を併発することを示唆します(Science Daily、 Mar.16、 2016)。血液検査の結果、モデルの血液中「IL-17」レベルが極めて高値であることが判明しました。「見かけは異なった疾患ですが、原因物質は同一だった」訳です。では、次に「なぜこのようなことが起こったのでしょうか?」この疑問について考えましょう。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0%e5%b0%8f%e5%87%ba32%ef%bc%89%e5%9b%b32

先ほど申し上げましたが、「IL-17」は血液中に存在します。と言うことは、血流に乗って全身に循環することができます。その上、左図に示したように、「IL-17」が「感染」(infection)や「自己免疫疾患」(autoimmune diseases)に関与していることも周知の事実です。また「IL-17」は、臓器別に様々な疾患の障害性の媒体(detrimental mediator)になっていることが理解できますね。

一般的に言って、血液循環に乗って運搬されるmediatorsの生理病理学的な作用は多彩を極めます。一つの疾患に関与するばかりか、遠位に運ばれ、まったく別の疾患にも関与しているケースも多く、新薬を研究開発する際には、十二分に注意を喚起する必要があります。「乾癬治療剤」である「IL-17阻害剤」を投与すると自殺企図が上昇したのも、これら薬剤の脳への作用によるものと予想されます。それじゃ~。