新薬開発の四方山話(41):「異常なタンパク質」が蓄積すると脳は消化不良に陥る?

栄養学(nutritional science)を少しでもかじったヒトなら誰しもが「良質のたんぱく質を摂取しようとか、α-リノレン酸、EPA(eicosapentaeic acid)やDHA(docosahexaaenoic acid)などのω-3脂肪酸が体に良いとか、糖類は控えめに」と「金科玉条」(Golden Rule)の如く仰いますね。こんなに自信を持って言えるなんて「羨ましい~」なんて、いつも私は「羨望の念」(a feeling of envy)を抱きます。

TOBIRAの小出徹です。今回は「異常なたんぱく質が蓄積すると脳は消化不良に陥る?」というタイトルです。上述のように、タンパク質は「三大栄養素」(three major nutrients)の一つです。さて、ここで質問。「異常なたんぱく質」とは、一体どんなタンパク質を言っているのでしょうか?さ~考えて。

回答:「正常な状況下」(専門的には「生理学的な状況下」、under physiological conditions)では生成されず、「病的な状況下」(under pathological conditions)でのみ、生成されるタンパク質のことを意味します。たとえば、アルツハイマー病(Alzheimer病、AD)、パーキンソン氏病(PD)、ハンチントン病(HD)や筋萎縮性側索症状(amyotrophic lateral sclerosis、 ALS)などの「神経変性疾患」(neurodegenerative diseases)の発症原因物質は、「異常なタンパク質」が脳内で生成するために発症すると米国の研究グループからごく最近報告されました(PLOS Biology、 2016; 14(6):e1002472)。

では、この「異常なタンパク質」は、脳内でどのように生成され、どのようにして「神経変性疾患」を来すのか?を考えます。この回答については、「病的な状況」の前に「生理的な状況」を考えます。

「生理的」な状況で生成されたタンパク質は、「シャペロン」(chaperone)という自らとは異なるタンパク質の力を借りて、「正しい折りたたみ」(folding)がされます。このように「シャペロン」は、生体内で生成されるタンパク質が複合体の形成する際、輸送される際、脱凝集(凝集体が開裂する)する際などの過程で、正常であり続けるのに「必要不可欠」(essential、 indispensable)なタンパク質なのです。

つまり、「シャペロン」の機能に異常が生じたりすると、タンパク質は「誤った折りたたみ」(misfolding)が起こり、脳内では粘性が高い凝集体を形成し、「プラーク」(plaques)や「濃縮体」(tangles)となり、正常な脳機能の維持を妨げます。このようにタンパク質の変性が原因で発症する疾患を総称して「タンパク質症」(proteinopathies)と言います。AD、 PD、 HDそしてALSともに「タンパク質症」です。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0%e5%b0%8f%e5%87%ba%ef%bc%8841%ef%bc%89%e5%9b%b31この病態像に対する「防御系」(defense mechanisms)をヒトは持っているのでしょうか?答えは「Yes」です。左図1を見て下さい。縦軸は「認知能」(cognition)、縦軸は「酵素レベル」です。この酵素を「ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニーリルトランスフェラーゼ2」(NMNAT2)と称します。

図から明らかなように、本酵素レベルが低くなると認知機能が落ち込んでいき、逆に高くなると認知機能は上昇しています。つまりNMNAT2レベルと認知機能は「正の相関関係」(positive correlation)にあります。NMNAT2は脳内で「シャペロン」として働き、生理学的な神経活動の維持ばかりか、病的な脳の保護作用も有しているのです。NMNAT2が増えるとAD原因物資(τタンパク質)は減ったそうです。