「知覚する」を英語でperceiveといい、名詞はperception。「行動する」はtake actionで、名詞はaction。なにか中学の英語の時間に出席しているような「錯覚に陥って」(under a misapprehension, develop an illusion/a false feeling)しまいますね。TOBIRAの小出徹です。今回は「知覚」と「行動」の関係について、お話をしようと思います。暫しお付き合い下さい。では、始めます。ヨ~イ、ドン。
ここでは「知覚」も「行動」も共に「脳(brain)が司っている機能である」と考えましょう。ご存知かもしれませんが、脳は機能に依拠し、異なる部位に「情報」(information)として「貯蔵」(store, storage)します。ですので、「知覚」と「行動」とは、脳の異なった部位が、それぞれの機能的な役割を担っています。「貯蔵」される脳の部位は異なっても、それぞれの機能を「円滑に統合する」(smoothly/harmoniously integrate)機能を生来的に脳は有しています。脳って「凄い」と思いませんか?神秘的でさえありますね。
このコラムは専門書ではありませんので、これ以上は深入りしません。「知覚」と「行動」が上手く連動している場合は良いのですが、これが上手く行かなくなると「異常な運動」(motor symptoms)が認められるようになります。今回は「パーキンソン氏病」(Parkinson’s Disease、 PD)を例として取り上げ、話を進めたいと思います。米国の二つの研究施設から発表された最近の成績に触れつつ論を進めます。
散歩をしている時など良く見かけるのですが、「足を引きずりながら」(a shuffling gait)、「前傾姿勢」(stooped posture)の方がいらっしゃいますね。これらの方々はPDに罹患していると考えられます。PDの臨床症状は、大別して、このような (a)「運動障害」と (b)「知覚する」ことに関連した「意思決定の障害」(impaired decision-making)とに分類されます。つまり「知覚と行動の連同機能障害」です。
UCLAの研究者たちは永年PDの研究に携っており、 PD患者では健康人と比較し「視覚情報」(visual information)が幾分でも曖昧模糊としていると、瞬間的な意思決定が困難となり、同種の過去の経験に頼らざるを得ない心的状態に陥る。その結果、最初の一歩が踏み出せずにPDに典型的な「足を引きずりながら前傾姿勢をとる」と解釈しました。足場に線を引いてやると、この行動は有意に改善されたからです。
続いてThomas Jefferson大学の研究成果をご紹介。昔からPDの発症には「活性酸素」(reactive oxygen)が関与していると考えられ、活性酸素を除去する作用を有する医薬品はPDの治療薬なると期待されました。そこで、V.CやV.E(抗酸化剤)を服用することが推奨されました。実は自然界にはN-アセチルシステイン(NAC)が存在し、この物質を服用、または注射すると細胞内のグルタチオンが増加し、活性酸素に対して防御的に作用すると考えられています。そこで、TJ大学の研究者は、NACをPD患者に3か月間服用または注射し、その後PD患者の脳をSPECTで撮影しました(上図)。そうしたところ、運動機能を司る脳領域の活性化(赤くなっている)が認められ(左、NAC投与前;右、NAC投与後)運動機能も改善したといいます。一般的に運動機能はある程度は既存療法で改善しますが、「知覚と行動の連同障害」は改善されないと言われていますので、今後の研究に期待するところ「大」です。「知覚」と「行動」でした。