新薬開発の四方山話(66):「格物致知・熱願冷諦」であるということ

40年間の新薬研究開発から学んだ経験を私は「格物致知・熱願冷諦」という文言に集約したいと考えます。「格物致知」とは「物事の道理・本質を冷静に深く追求し、知識や学問を深め得ること」(gaining a perfect knowledge of natural laws)のことです。これこそが「イノベーションの源泉」(the fountainhead of innovation)。私の「信念」(belief)。お元気ですか?TOBIRAの小出徹です。

40年間なんて永そうですね。が、「光陰矢の如し」(”Time flies like an arrow.“ “Time and tide wait for no man”)が単純にして明快な言い廻しです。さて、「格物致知」に相応しい最近の医学関連論文(PRONAS, Nov. 2016,米国・ノースカロライナ州立大学からの発表)を今回ご紹介しますよ。

電車の中では「マスクにマスクしている人?」を良く見かけます。「雷鳴」(thunder)の如き大きな声で「ハクショ~ン、ゼーゼーゼー」。果てはまた「赤く腫れ上がった痒そうな皮膚」を「掻き」(rub, scratch)続ける人もいます。想定される病名は「喘息」(asthma, AS)そして「アトピー性皮膚炎」(atopic dermatitis, AD)ですね。共通している「身体反応」(body reactions)は「アレルギー反応」(allergic reactions)。と言う訳で、今回扱う疾患は「アレルギー」(allergy)です。それでは始めます。

【基礎知識】「アレルギー」の原因物質を「アレルゲン」(allergens)と言い「花粉」(pollens)、「塵」(dusts)や「細菌」(bacteria)などあり、「花粉」は「花粉症」(hey fever)を起こします。これら「アレルゲン」は生体組織にある「肥満細胞」(mast cells)や血液中「好塩基球」(basophils)の細胞膜上にある「免疫グロブリンE受容体」(IgE receptor)と結合し、「ヒスタミン」(histamine)などの「炎症反応惹起物質」(inflammatory mediators)を「遊離」(release)させ「アレルギー反応」を起こします。この反応の場が「気道」(airway)であればAS、「皮膚」(skin)であればADですね。

【新発想による治療法】(質問):貴方だったら「アレルギーの治療」をどのようにしますか?下図左が「アレルギーが起こった状況」を参考にしながら考えて。(回答-1):論理的に考えましょうね。コラム小出(66)-図1「アレルギー反応」は「ヒスタミン」遊離が原因。だから(1)ヒスタミン遊離抑制剤を投与する。(2)ヒスタミンやその他の「炎症反応惹起物質」の特異的な受容体拮抗剤を投与する。(3) ステロイド剤で「免疫反応を全般的に抑制」(dampening of overall immune response)する。ここまでは「抗体療法」(antibody therapies)を含め、幾多の医薬品が世の中にでています。が、有効性や安全性に難点があります。そこで(回答-2):「肥満細胞」や「好塩基球」に「特異的」(selective)に作動し「肥満細胞IgE受容体機能の低下」を目指そう。どのようにして?「IgE受容体構造を改造し活性化されない」ようにして。それには「IgE高親和性部位」(high affinity IgE receptor)を潰す。このように「格物致知」的な発想から、「新規AS・AD治療法」(アンチセンス法、上図右)が創出されようとしています。素晴らしい!ですね。