新薬開発の四方山話(50):柔軟な発想で新たなる治療の道を開く

今回の題目は「柔軟な発想」(flexible mindset)で「新たなる治療の道を開く」(pave the way for new therapeutic approaches)です。具体的な疾患としては、「変形性関節症」(osteoarthritis、 OS)、「筋肉減弱症」(sarcopenia、 SAR)及び「多発性硬化症」(multiple sclerosis、 MS)を扱います。

医学論文を目にするにつけ、私はいつも思うことがあります。「日本の医学研究者は基礎医学論文投稿数においては、世界の一桁台にランク入りしているにも拘らず、臨床医学論文数ではなぜいつも二桁台を維持しているに過ぎないのか?このギャップは一体どこから来るの?」素朴な疑問ですが、未だに回答を得ていません。さて、そんな私の目に先ず留まったOSに関する論文(PRNAS、 2016; 20160 639DOI:10.1073pnas.1601639113)を紹介します。お元気ですか?TOBIRAの小出徹です。

約3、000万人の米国民が罹患しているOSの治療法の一つに外科手術があります。いままで開発された人工関節ですと植え込んでから20年も持たないため、50歳以下の患者に手術を実施することを医師は躊躇していました。しかしながら、この度Washington大学と米国Cytex Therapeutics社とが共同で、新たな人工関節を開発しました。3-Dを駆使し患者の関節に完全にフィットし、生体内で分解可能な約600種の繊維、自分の体重の10倍以上の負荷をかけても問題はありません。まるで、本物の「軟骨」(cartilage)です。さらに驚いたことに、自己の皮膚脂肪層由来の「幹細胞」(stem cell)が人工関節表面に含まれており、患者にある医薬品を投与しさえすれば、局所性の炎症を抑制し、関節痛を軽減し、再度手術を受ける必要性がないくらい治癒するというのです(下図参照)。日本人医学研究者でしたら、人口関節までは製造できるとは思いますが、その表面に自己の「幹細胞」を含ませるという発想が果たして出てきたしょうか?やはり、固定観念に囚われない「軟な発想こそが新たなる治療の道を開く」のですね。

次に「筋肉減弱症」に関する論文をご紹介します(Cell Reports、 2016;DOI: 10.10コラム小出(50)-図116/j.celrep.2016.06.095)。老化に伴う筋力低下(SAR)、筋ジストロフィーなど広義での「筋原性疾患」(myopathies、MP)は今や大きな医療問題になりつつありますが、これらが「共通の機序」(common mechanisms)で発症するとの仮説がこの論文で提出されました。mRNAの崩壊を制御するAUF1は「成人筋肉幹細胞」(adult muscle stem cell)の「運命」(fate)を決定するタンパク質です。つまり、何らかの原因でAUF1のシグナル機能が落ち込むと、筋肉の障害治癒が著しく遅延するという。この作用機序を検討したところ、AUF1遺伝子をなくしたところ、MMP9(matrix metalloproteinase 9)活性が上昇し、幹細胞による修復機能が減弱したとのことです。つまり、市販の制癌剤などでMMP9活性を抑制しさすれば、様々な種類のMPが治療でき得るとしました。斬新な発想です!

最後に「多発性硬化症」の新規治療方法について(ScienceDaily、 19 July2016)。MSは自己免疫疾患の一つであり、中枢神経軸索の「脱髄」(demyelination)によって引き起こされる。この治療法の一つとして血液脳関門NMDA(N-methyl-d-aspartate)受容体とtPA(tissue plasminogen activator)の結合部位を阻害すれば新薬が創製できるとした。事実GlunomabRという抗体が発見された。これも凄い!