今回は「一石二鳥(”Killing two birds with one stone”)で敵を一網打尽(”catching the whole herd with one throw”)」と題し、お話を進めたいと思います。TOBIRAの小出徹です。それでは始めます。
先ずは下の表をご覧ください。この表はアルツハイマー病(Alzheimer’s Disease、 AD)発症原因物質二つを比較したものです。ヒトの脳では約10年から15年かけて、これらの物質は生成されます。
AD発症原因物質の比較
これらの物質は二つが揃った時に脳に甚大な傷害を惹起します。つまり、Aβ単体だけでも脳の神経細胞に障害を及ぼしますが、過リン酸化タウタンパク質共存すると、神経毒性が俄然亢進し、行動異常や認知症などの臨床症状が発現すると考えられてきました。今回は最近の知見について触れます。米国Johns Hopkins大学研究成果です(Nature Communications、 2016;7:12082 DOI:10.1038/ncomms12082)。
今までは先ずはAβが脳内に異常に蓄積することによりタウタンパク質の「凝集」(aggregation)が起こり、認知症や神経細胞の「脱落」(degeneration)が起こると考えられてきました。しかしながら、これら二種の異常たんぱく質が時系列的にどのような関係で生成されるのかは不明でした。
ところが、今回の研究から (1) Aβが蓄積しただけでは異常なτ-proteinが生成するには充分ではなく、 (2) 行動や認知能力に異常を来すのには「第二の侵襲」(a second insult)、つまり正常なτ-proteinが異常なτ-proteinに変換することが特に重要であると想定、そして、(3) Aβが蓄積しτ-proteinの「断片化」(fragmentation)がおこり、 「炎症」(inflammation)が起こり、野生型τ-proteinが病的なτ-proteinに変換するという「一連の化学的シグナル」(a chain of chemical signaling events)あるいは「種々の対立遺伝子や危険因子のアリー」(a combination of risk alleles/factors)が「後期AD」(late-onset AD、 LOAD)に関連(上図参照)。一旦タウタンパク質凝集体が生成されると、脳内で種々の化学的悪循環が駆動し出し、ついにはLOADに陥るとしました。これを治療学的に解釈しますと、Aβ plaqueが生成されていても、τ-proteinの変性を抑制することが最善策であり、言わば「一石二鳥」でLOADを「一網打尽」に壊滅できると提案しました。実に素晴らしい発想です。