新薬開発の四方山話(52):時が流れヒトの考えを変える

 ヒトは「きまりごと」(rules)を作ることがどうも好きなようですね。兎にも角にも「値」(values)を設定したがる「習性」(habits)があるように私には思えてなりません。いつものTOBIRA・小出徹です。

毎年人間ドックに行きますと、私はいつのまにか「しかめ面」(wry looks/faces)になってしまいます:腰回りは男性83cm、 血圧は収縮圧が130mmHg、 拡張圧は90mmHg、 BMI(body mass index)は20.0、 LDL-C(low density lipoprotein-cholesterol、低比重リポプロテイン)とHDL-C(high density lipoprotein-cholesterol、高比重リポプロテイン)の比は2.0など数字のオンパレードです。皆さまもご経験なさっていますよね。これら数字の上限を超えると、例えば「生活習慣病」(life style related diseases)だなんて「診断」(diagnosis)を下されます。ところが、何故かこれらの「上限値」は年によって変動します。つまりは、これらの数字には「絶対的な意味」(absolute significance)は持ち合わせない。私は「一体全体なんの意味があるの?」と素朴に思う訳です。そして、次の疑問は「生体内に存在する絶対とは?」

今回は、そんな話題を題材に取り上げてお話をします。一つ目は英国・Oxford大学からの論文、二つ目はドイツ・Wurzburg大学からの論文です。「時が流れヒトの考えを変える」をお楽しみ下さい。

「血液生化学値」(blood biochemistry)を用いて脂質代謝を診る場合には、TG(総トリグリセライド)、T-CHO(総コレステロール)、LDLそしてHDLを測ります。例えばLDLは「悪玉コレステロール」、HDLは「善玉コレステロール」などと言われ、TGは低めに保ち、LDLが高い場合には要注意などと今まではそれぞれの値は、独立した医学的意義しか持ち合わせていなかった。

ところが、英国の研究者は「LDL-CとTGとが高いと冠状動脈疾患(coronary artery disease)を発症するリスクが高まり」(JAMA Cardiology、 2016; DOI: 10.1001/jamacardio.2016、1884)、「LDL-C、HDL-CそしてTGが高まるとII型糖尿病が発症するリスクが低くなる」(JAMA Cardiology、 2016; DOI:10.1001/jamacardio.2016.2298)という「驚くべき成績」(astonishing study data)を発表しました。さてと、「内科医」(physicians/internists)の皆さま方どうなさいます?混迷を極めますね。

次は「神経障害」(neuropathies)について触れます。下図をご覧ください。これは一個の「神経細胞」(neuron)です。細い枝のような「樹状突起」(dendrites)、「細胞体」(cell body)、長い筒のような「軸索」(axon)、これを囲んでいる「ミエリン鞘(しょう)」(myelin sheath)なる絶縁体、「ランヴィエの結節」(nodes of Ranvier)から成り立っています。何らかの原因で、ミエリンが剥がれ落ちて「脱髄」(demyelinating)が起こると「神経障害」が起こります。では、この原因となる絶対的な生体内因子は?

自己免疫性疾患性神経障害は適切な診断法が無かったため、治療を開始するのにも時間が掛かっていました。しかし、今回その原因は「Caspr」というタンパク質に対する抗体が生体内にできることにあるとドイツ研究者は突き止めました。また「Rituximab」投与により、この抗体生産が抑制され、症状が緩和されることを報告しました(Brain、 2016; aww189DOI:10.1093/brain/aww189)。素晴らしい!

コラム小出(52)-図1