新薬開発の四方山話(75):「耳なし芳一」ってどんなヒト?

琵琶法師「耳なし芳一」は「Patrick Lafcadio Hearn」(日本名:小泉八雲)の小説「怪談」のなかの主人公。ご存知の方も多いとお察しします。また「William Shakespeare」は「ベニスの商人」(The Merchant of Venice)のなかで「But love is blind、 and lovers cannot see the pretty follies that themselves commit.」(しかし、恋は盲目で恋人同士は自分たちが犯す愚行が分からない)と言う名言を披露しました。さて質問:この二つの題材の共通のワードはなんでしょうか?回答:「盲目」(blindness)です。今回は「盲目」に対する新規治療法をご紹介します。ご案内はいつものTOBIRA・小出徹です。

コラム小出(75)-図1左図をご覧ください。上段は正常な方、下段は加齢黄斑変性患者の画像イメージを示した。大事な部分がボンヤリして実像を把握することすら困難ですね。「盲目」となる原因には「白内障」(cataract),「未熟児網膜症」(retinopathy of prematurity),「緑内障」(glaucoma)そして「加齢黄斑変性」(age-related macular degeneration,ARMD)があります。今回はARMDを題材に取り上げます。ARDMは米国では「盲目」の原因第一位であり男性が女性の3倍多く発症します。

ARMDの治療法には「新生血管阻害」を目的に「血 管内皮細胞成長因子」(vascular endothelial cell growth factor,VEGF)阻害剤の投与、「光線力学的療法」(photodynamic therapy)や「レーザー光凝固術」(laser photocoagulation)が実施されています。

2013年に理化学研究所が「ARMDに対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植の臨床研究」を開始したとの報道が流れました。ご記憶ですか?今回ご紹介する研究も同じグループからの発表でStem Cell Reports (January,2017) に公表されました。この論文ではマウス由来性「人工多能性幹細胞」(induced pluripotent stem cells, iPSCs)を「末期網膜変性症マウス」(mouse with end-stage retinal degeneration)に「移植した」(transplant)ところ、 マウス網膜での「神経回路網」(neural network)が構築され光刺激に反応するようになったそうです。理研はこの成績をもって「概念実証」(proof of concept)がなされたとして近々臨床試験に入るとのこと。

マウスが光刺激に応答するようになったという実験成績は「視覚機能が回復」(restorations of visual function)したと解釈されます。また、末期網膜変性症に対する有効な治療は限られているため、この療法をヒトにマウス(1か月間)よりは長い期間(5~6か月間)ヒトに適用し臨床効果判定するそうです。

「網膜」中心部に「光受容体」(photoreceptor)の機能を果たす「黄斑」があります。「網膜」は「感覚網膜(神経性網膜)」(sensory retina/neural retina)と「網膜色素上皮」(retinal pigment epithelium)があります。前者は「光信号を電気信号に変換」し、後者は前者の「栄養補給・老廃物消化」を行って視力を維持します。「ゲーテ」(Johann Wolfgang von Goethe)の「More light!」を最後の言葉に添えて。