新薬開発の四方山話(86):”Don’t forget: You、 Too、 Can Acquire a Super Memory”

新薬開発の四方山話(86):”Don’t forget: You、 Too、 Can Acquire a Super Memory”

 

「忘れないでね:あなただってスーパー記憶ができるのよ」(Catherine Caruso, Scientific American、 March 9、 2017)。「刺激的な表題」(What a sensational title it is!)です。それもそのはず「500桁の数字を5分間で記憶する」ことができる「記憶の天才」(elite memory athletes、EMA)と「一般人」(naïve subjects, ns)との脳の機能がどのように異なっているのか科学的に探究したオランダRadbound Univ.の発表(Neuron 93: 1227-1235, March 8, 2017)をご紹介いたします。

この研究では「行動試験」(behavioral tests)と「脳画像」(brain scans)とをマッチングさせ研究を実施。nsでさえ「記憶術」(mnemonic trainings)を学べば、数週間でEMA並みになれることを示しました。過去においてはLondonのタクシー運転手があの入り組んだ市街地を如何にして記憶するのかという研究がありましたが、今回は「記憶の獲得」(memory acquisition)に伴う脳内の変化をEMAとnsとの間で「fMRI」(functional magnetic resonance imaging)で経時的に比較検討したものです。

その結果、脳の機能に関しては、試験開始前の「静止状態」(resting state)ではEMAとnsとで何ら違いはなかったのですが、ある種の「課題」(task)を与えると「脳内の神経結合性」(brain neural connectivity)がEMAにおいて結合性が高いことを発見しました。そこで研究者たちはnsを2群に分類し、片方の群には毎日30分間の「記憶術」の訓練を6週間実施、もう片方の群には訓練を全く施しませした。そうしたところ、訓練を受けたヒトは徐々にEMAと似た「脳内の神経結合性」を示すようになって移行したとのことです。つまり訓練を受けたnsは、自分で自分の脳機能を改善する能力を元来有し、しかも、この効果は4か月間も持続したとのことです。私たちに対し大きな勇気を与えてくれますよね!

コラム小出(86)-図1実際の右半球脳画像が左図です。赤線、青線はそれぞれEMAとnsとを比較して「脳内の神経結合性」が強かった部分と弱かった部分を示しています。黄色の大きな球は「前頭前野背外側部」 (dorsolateral prefrontal cortex、DLPFC)、図の下にある小さな黄色い球が「海馬」(hippocampus)、図左上側にある中位の黄色い球が「頭頂後頭皮質」(parieto-occipital cortex)、小さい黄色の球が「脳梁膨大後部皮質」(retrosplenial cortex)です。これらの脳部位はすべて「記憶の形成」や「呼び起こし」(recalling)に関与し「記憶の獲得時」(encoding)に大切です。この中でDLPFCは「脳内の神経結合性」の「ハブ」(ネットワークの中心に位置する集線装置,hub)と称されています。この機能が落ち込みますと「記憶の戦略」が立てられず、訓練しても記憶として残りません(少々専門的になり過ぎました。この辺で話を止めます)。

要約しますと、(1)「脳内の神経結合性」については「ある脳部位内」(within-network)よりも「脳部位間」(between-network)がより重要であること、そして(2)「課題に取り組んでいる最中」(during task engagement)では逆である、の2点です。「安静状態にある脳が示す神経活動」(default mode network)が「記憶術」訓練によって活性化され、遂にはnsの記憶がEMAに追いついて行く訳ですね。じゃ~また。