ドイツ語の諺に「Ohne Wasser, Ohne Leben」があります。これを英語に倒しますと「Without water, no life」であり「水なきところ生命なし」を意味します。それこそ「水は生命の源」ですね。
私たちの身体は60兆個の細胞からできていますが、そのうち「水」が占める割合は、どれ位とお思いでしょうか?「100 %」なんて言うことはないでしょうが、「数%」それとも「数十%」ですか?
「は~い、答えは60 ~ 70 %」なんですよ。何故にこんなに多くの「水」が細胞に満たされているのでしょうか?本日の話題は、この問いについて考えてみたいと思います。TOBIRAの小出徹です。
小学生の理科の教科書にも書いてありますが(私たちの頃は高校の生物で習いました!)、私たちの身体にある細胞膜は「脂質二重層」(lipid bilayer)から成り立っています。ですので、「基本的には細胞膜は水を通さない。にもかかわらず何故に細胞内に水が60 ~ 70 %もあるのか?」という疑問が湧きます。
米国Johns Hopkins大学Peter Agre教授は1992年Am.J.Physiol.に「細胞膜には水のみを選択的に通過させる水チャネルがある」ことを発表し「水の通り道」との意味で「aquaporin」(アクアポリン,AQP)と命名しました。この発見で2003年にはノーベル化学賞を受賞しました。左図はAQPの模式図です。
いまのところ「哺乳類」(mammalian)では13種類のAQPが知られていますが、もっと増えるでしょう。有名なのはAQP1~4ですべて腎臓にあります。
「中枢神経系」(Central Nervous System,CNS)では2種類のAQPが存在しています。AQP1とAQP4で、それぞれ「脈絡叢」(choroid plexus)と「アストログリア」(astroglial cells,AST)に存在します。前者は「上衣細胞」(ependymal cells)で「脳脊髄液」(cerebrospinal fluid,CSF)を産出し、後者は「脳微笑血管系」(microvessels,MVs)を取り囲み「血液脳関門」(blood-brain barrier, B.B.B.)を形成し、どちらの細胞も「水の出入り」に関与していることがお分かりかと存じます。
左図をご覧ください。緑色に染まっているのがASTで、紫色に染まっているのがAQP4です。長細く見えるのがMVsです。AQP4がMVsを取り巻いている様子が良く分かりますね。約50 %のMVsがAQP4に取り巻かれていると言われています。また、 AQP4が欠損させるるとCSFが「間質液」(interstitial fluid、 IF)に存在する「老廃物」(body wastes)の除去が70 %減弱することも判明しました。
つまり、MVsに存在するAST-AQP4は、脳内からMVsへの老廃物の輸送に関与しています。これをM. Nedergaardは「glymphatic system」と名付けました(コラム33参照)。AQP4の自己抗体産出は「視神経髄膜炎」(neuromyelitis optica、 NMO)の原因です。