「瞑想(めいそう)」を英語で「meditation」と言い、「妄想(もうそう)」を「delusion」と言う。似ていて非なる単語だ。精神科学では良く使われる単語ですので、これを機会に覚えて下さい。その「瞑想」の医学的な効果を真面目に検討した研究グループがいました。その臨床成績を今回ご紹介します(J. Neurosci.、 Nov. 11、 2015)。なお「瞑想」を「mindfulness meditation」と言うこともあります。
この研究では78名の健康人を4つのグループに分けた。(1)瞑想することに熟練したヒト、(2)まったく瞑想の経験がないヒト、(3)鎮痛剤クリームを使用するヒト、そして(4)鎮痛剤が含まれていないクリームを使用するヒト。そして、それぞれの4つのグループには「痛み」(pain)を負荷しないヒトを1人だけ入れた。なお「痛み」は、49oCに熱した熱発生器具をヒトの皮膚に与えて引き起こした。 「痛み」は(1)物理的な知覚反応(physical sensation、 PS)と(2)何とも表現し難い嫌な感じ(emotional response、 ER)の2点から判定した。また被験者には4日間にわたり「痛み」を負荷する前後で「MRI、magnetic resonance、 核磁気共鳴法」にて脳の画像を撮影した(図1)。 さて、さて「瞑想」はどのような効果を発揮するのでしょうか?興味津々ですね。では、これからこの実験結果について箇条書きで述べます。
(1) 鎮痛剤を使用したヒトではPSが11%、 ERが13%減弱した。それに対し「瞑想」に熟練したヒトでは、それぞれ27%と44%であった。つまり鎮痛剤よりも「瞑想」は改善率がより高かった。なお「瞑想」の経験がないヒトは9%と24%であった。
(2) さらに驚いたことには、鎮痛剤を塗ったヒトと「瞑想」に熟練したヒトとでは、MRI画像上活性化されていた脳の部位がまったく異なっていた。
(3) このような「瞑想」の「痛み改善効果」を発現するには、たったの20分の「瞑想」で充分だった。
今回の試験は、すべて「急性の痛み」(acute pain)に対する効果のみであったので、今後は「慢性の痛み」(chronic pain)についても、検討を予定しているとのことでした。
「痛み」のコントロールは、たとえばガン患者の疼痛を管理する「緩和医療」(palliative medicine)あるいは「緩和ケア」(palliative care)の面からも極めて医学的な意義があります。なぜなら、これにより患者さまの「生活の質」(QOL、Quality of Life)を改善するからです。
私も若いころ「鎮痛剤」の研究に取り組んでいました。あの有名な「鎮痛剤のモルヒネ」より100倍も300倍も強い鎮痛作用がある物質を発見し特許化には成功しましたが、副作用が「モルヒネ」とまったく変わらず、医薬品として世には出すことができませんでした。これじゃ~「本末転倒」ですね。世の中に出して「なんぼのも」ですから。TOBIRAの小出徹でした。じゃ~またコラムでお会いしましょう。
図1 MRI脳画像