新薬開発の四方山話(23):男女平等って本当にあり得るのでしょうか?

動物界ではオスとメスの区別がない生物を「雌雄同体」(hermaphroditism、 monoecism)といい、区別あるものを「雌雄異体」(gonochorism、 dioecism)といいます。今回は「標題の質問」を生物医学的に真面目に考えてみたいと思います。ご案内役はいつものTOBIRAの小出徹です。「では、出発進行~!」

男性と女性とを分けるのは染色体ですので、医学的には「性転換」(sex change)することはできず単に機能的にオスとメスとを変換するだけです。ところで、昨今「少子高齢化」(the declining birth rate and aging population)あるいは「女性の社会進出」(lady’s empowerment)、さらに「性同一性障害」(gender identity disorder、 GID)、「同性愛」(homosexuality)や同性結婚など「性」に関する社会問題を今までの男性優位の社会通念からではなく新たなる観点から見直そうという機運が高まってきています。

男性と女性の生理学的な機能を分ける生体内物質は「性ホルモン」(sex hormones、 sex steroid)と総称され、 下図のように分類されています。「男性ホルモン」は「androgens」(アンドロゲン)の「テストステロン」、そして「女性ホルモン」には「estrogens」(エストロゲン)と「progestogens」(プロゲストゲン)が含まれます。これらの「性ホルモン」は脳の「脳下垂体前葉」にから放出されたホルモンが睾丸や卵巣などの標的臓器に働きかけ、それぞれ恒常的に生成されています(「内分泌」と言います)。

コラム小出(23)-図1

「エストロゲン」の生理機能は、一般に「テストステロン」より多彩で、心臓循環系改善作用や血小板凝集抑制作用や骨粗しょう症発症抑制作用など有します。やはり女性には「子供維持するための構造」が生まれながらにして備わっているのかも知れませんね。脳の機能においても「性差」が生じます。男性は「空間認知能力」(spatial perception)や「方向感覚」(sense of direction)に優れ、女性の場合には「視覚」(vision)や「言語能力」(linguistic competence)に優れています。「性差」って面白いですよね。

「性差」は男性ホルモンの「テステステロン」や女性ホルモンの「エストロゲン」に脳が長いこと暴露され脳組織の構造的な変化が来された事が原因です。男性の場合は、言語を使う時には「言語優位脳」である「左脳」しか使用できませんが、女性の場合は「左脳と右脳」の両方の脳を同時に使うと言われています。これは「左脳」と「右脳」を連結している「脳梁」(のうりょう、corpus callosum)という構造体の神経細胞数が増えた事が原因と考えられています。いずれにしても「子育て」には都合が良い環境作りを脳がやっている。こんなことを考えますと、果たして「男女平等」って本当にあり得るのでしょうか?

最後にもう一つ:ノルウェーで実施された最近の臨床試験成績によりますと、閉経後の女性に閉経直前ないしは直後から「エストロゲン」を含んだサプリメントを服用すると、記憶に大切な「海馬」の容量が保たれ、飲まないヒトよりは認知障害発症率が有意に少なかったとの事。「凄いね、女性ホルモン!」